現地スタッフの昇給や賞与を決める時期になるとまず会社全体でどこまで原資を出せるかを検討します。前年実績や予算、物価の動きなども確認しますが、特に重視したいのが会社の業績と現地の昇給相場です。タイで昇給原資を決める際もこの二つを軸に考えていました。
この記事では定期的な昇給と賞与を扱います。昇進に伴う昇給や個別の給与調整は対象にしていません。
昇給原資は業績と市場の昇給率から決める
業績が良ければ原資を増やし、悪ければ抑えることになります。ただし、会社の業績のみで決めてしまうと現地の労働市場とのズレが大きくなります。
特に確認しておきたいのが周辺企業の昇給率。工場であればタイ全体の平均だけでなく同じ県や工業団地にある企業の動きも見ておきます。
周辺企業が5%の昇給を続けている中で自社だけ2%が続けば給与差は年々広がります。既存スタッフの離職にもダイレクトに影響します。
だからといって毎年市場に合わせて原資を出せるとは限りません。業績が悪い年もあります。
昇給原資を決めるときは会社が今年どこまで負担できるのかと、市場の昇給率からどこまで離れていいのか。この二つを見ることになります。
現地スタッフを採用するときの給与設定については現地スタッフ採用の給与はどう決める?既存スタッフとのバランスで扱っています。
日本本社には市場との乖離を数字で説明する
日系企業では現地側で昇給原資を検討した後、日本本社にその根拠を説明します。
業績が悪ければ日本本社から「今年はもっと昇給率を下げられないか」と言われます。コロナ禍等で業績が落ちた時期は市場の昇給率も下がっているため、原資を抑えること自体は妥当です。難しいのはどこまで下げるかです。
周辺企業より明らかに低い昇給率を出せばスタッフから不満が出ます。賞与も前年から大きく減らせば当然反応は大きくなります。それでも業績によっては下げなければならない年があります。
本社への説明では自社の業績に加え周辺企業の昇給率や賞与、自社の離職状況を材料にします。業績が悪い年には現地スタッフにもある程度我慢してもらう。ただし翌年以降の離職につながるほど市場から離さない。この間で数字を決めるのが現地側の仕事です。
昇給・賞与につなげる個人評価はどう決めるか
会社全体の原資が決まったら次は個人評価です。
タイで運用していた制度では5段階の絶対評価を採用していました。S評価やA評価の人数をあらかじめ決める相対評価ではなく、設定した基準に対して一人ずつ評価します。
絶対評価では基準を満たしていれば高い評価が何人いても問題ありません。逆に一定数をCやDにする必要もありません。
低い評価に対する不満はタイでも当然出ます。日本と比べると評価への不満を本人がかなりはっきり主張します。Bを標準として十分な仕事をしているスタッフを人数合わせでCに落とせば本人への説明も難しくなります。この点で絶対評価は使いやすい方法です。
評価会議で部門間の評価を調整する
ここで出てくるのが評価者による甘辛です。同じ基準を使っていても高い評価を出しやすいマネージャーと厳しく評価するマネージャーがいます。
そこで各部門の一次評価を集めた段階で部署ごとの評価分布を出していました。S、A、B、C、Dがそれぞれ何%いるのかを並べると部門による違いが見えてきます。
実際に5人いる経理部門でS評価が2人、A評価が3人という年がありました。絶対評価なので全員が基準を満たしているならこの評価でも問題ありません。
評価会議では各部門のマネージャーに集まってもらい、部署ごとの評価分布を見ながら評価内容を確認します。経理のように高評価が集中していれば、なぜSやAなのかを他部門のマネージャーにも説明してもらいます。
他部門と並べることで「うちの評価は少し甘かった」とマネージャー自身が気づき、評価を見直します。逆に高評価の理由を説明できるなら人数を合わせるために下げる必要はありません。
S評価を何%、A評価を何%と先に決めれば相対評価です。絶対評価で揃えるのは評価分布ではなく評価基準です。
個人評価を昇給・賞与にどう反映するか
個人評価が決まったらそれを実際の昇給率や賞与に反映します。A評価だから昇給5%、B評価だから3%と毎年同じ数字を使う方法ではその年の業績や市場の昇給率を反映できません。
B評価を基準にして評価が上がるごとに昇給率にも差をつけます。ただしB評価なら毎年3%というように昇給率を固定するわけではありません。基準となる昇給率はその年の原資と評価分布、各スタッフの給与額をもとに調整します。
賞与で考えると分かりやすいです。たとえばB評価を2か月、A評価を2.5か月、S評価を3か月と設定したとします。全社員分を計算して賞与原資を超えるのであれば、B評価の基準を下げ、それに合わせてAやSの月数も調整します。
極端な例ですが全員がA評価ならA評価の基準そのものを下げることになります。原資が変わらなければ全員がB評価だった場合と最終的な賞与月数は同じです。
個人評価によって原資の配分に差をつけますが、評価結果によって会社全体の原資が増減するわけではありません。
昇給と賞与で会社業績をどう反映するか
賞与はその年の会社業績を反映させやすい部分です。業績が良ければ増やし、悪ければ減らすことができます。
昇給は事情が違います。一度基本給を上げれば翌年以降の人件費にもそのまま残ります。タイでは一度上げた給与を会社側の都合で後から下げるのは難しく、昇給を決める段階で翌年以降の負担まで考えておかなければなりません。食事手当や通勤手当なども一度引き上げると後から減額するのは難しくなります。
業績が非常に良かった年に大きく昇給させても翌年も同じ業績が続くとは限りません。単年度の業績を大きく反映させるなら賞与の方が扱いやすく、昇給は周辺企業の昇給率と翌年以降の人件費を見ながら決めます。
